フロントが2輪のバイク!LMW(リーニングマルチホイール)とは何か?

フロントが2輪のバイク!LMW(リーニングマルチホイール)とは何か?

 

2014年に、ヤマハの3輪バイク「トリシティ125」が発売されて、すごく話題になりましたよね。3輪車といえば後輪が2輪タイプが普通ですが、フロントが2輪となった珍しいタイプです。

 

3輪のバイクとしては、ホンダの「ジャイロ」がピザのデリバリーなどで利用されていますが、それとは真逆の構造になっていますね。

 

最大の特徴は、LMW(リーニングマルチホイール)となっていて、通常の2輪車と同じように車体を傾けて旋回することができます。なので、車体の安定感を保ちつつ、軽快に走行することができるメリットがあるわけです。

 

ここでは、LMWの構造とメリットについて解説をしていきます。

 

 

LMW(リーニングマルチホイール)とは何か?

 

フロントが2輪になると、曲がるときにホイールだけを進行方向に傾けるのが普通です。これは自動車と同じ原理で、車体は平行を保ったままでコーナーを曲がっていきます。

 

でも、LMWとは、フロントが2輪にもかかわらず、車体を傾けて曲がることができるものです。これにより、2輪バイクと同じ感覚で乗ることができ、走行フィーリングが失われることはありません。

 

ヤマハのLMWでは、それを実現するために以下の2つの構造が採用されています。

 

  • パラレログラムリンク
  • 片持ちテレスコピックサスペンション

 

 

パラレログラムリンク

 

 

LMWを実現するために絶対に欠かせない技術が、パラレログラムリンクです。パラレログラムとは平行四辺形という意味で、上下に2本のリンクプレートを配置して、そこでホイールと繋がったフロントフォークを支持する仕組みとなっています。

 

これによって、フロント2輪を車体と平行に傾けることができるわけです。車体が真っ直ぐの時には長方形で、車体を傾けると平行四辺形になりますね。リンクプレートは、常に平行を維持する構造です。

 

パラレログラムリンクなしでLMWは成立しませんので、かなり重要な技術だということができるでしょう。

 

 

片持ちテレスコピックサスペンション

 

 

フロント2輪は、独立したサスペンションが装着されていて、テレスコピックサスペンションが内側に2本ずつとなっています。なので、外側から見るとホイールが浮いているように見え、これがトリシティの外観ポイントですね。

 

左右のサスが独立しているので、段差を乗り越える際にも安定しています。片側に2本ずつ取り付けられたサスは、前側はガイドパイプの役割であり、後側だけで衝撃を吸収する仕組みのようです。

 

 

LMWは走行時の安定性が高いのがメリット

 

フロントを2輪にするのは、デザイン性の理由だけではありません。普通の2輪車よりも、圧倒的に安定性が高くなるという利点があります。

 

一般的なスクーターは、リアにエンジンなどのパーツが集中するため、荷重が後方に偏っています。なので、コーナリング時などに不安定になってしまうわけです。

 

一方、LMWはフロントタイヤが2本あるため、前方の荷重が増えて前後の重量バランスが最適化されます。そのため、走行時の安定性が良くなるというメリットがありますね。

 

前後の重量バランスが均等であれば、タイヤの消耗も少なくなりますね。スクーターはリアタイヤの消耗が激しいですが、LMWであれば重量が分散されるためタイヤが長持ちしやすいです。

 

ランニングコストやメンテナンスの手間を減らせるのも、LMWの大きなメリットだといえるでしょう。

 

 

さらに、路面が濡れていたり凍結しているときでも、フロント2輪のおかげでグリップ力を失うことがありません。左右のどちらかが滑っても、もう片方がグリップしているため、滑りにくくなるということですね。

 

また、急ブレーキをかけた際には、前輪がロックしにくいです。フロント2輪なのでタイヤと地面との摩擦力が大きくなり、ブレーキロックの現象が起こりにくくなります。

 

普通のバイクではふらつくような場面でも、LMWであれば安定して走行することができるでしょう。雨天時や悪路での走行が多い人なら、LMWの恩恵を十分に感じられるはずです。

 

 

40年近くの構想期間を経て誕生したLMW

 

トリシティが発売されるまで、ヤマハでは長くLMWについて構想されていました。

 

1970年代から、より安定して走行できるバイクを目指し、フロント2輪車の可能性を模索したようです。実際に試作車を作って実験を繰り返し、1976年には特許を取得しました。

 

しかし、その頃は原付スクーターの売上がすさまじかったので、フロント2輪の開発はいったん中止して、原付スクーターの開発に注力することになります。

 

 

それから、2007年の東京モーターショーにて、「テッセラクト」という4輪バイクのコンセプトモデルを発表しました。走行時の高い安定性能から、再びLMWの開発の熱気が社内で高まったそうです。

 

でも、リーマンショックで世界的な金融危機となってしまい、バイク市場も冷え込んだことから研究開発が進むことはありませんでした。

 

 

その後、2010年代に入って景気も安定し、既存のバイクとは違った新しいバイクの提案時期に来たと判断します。

 

そこで、パラレログラムリンクと片持ちテレスコピックサスペンションによる独自のLMW機構を開発し、2014年にトリシティ125を発売しました。

 

 

LMWはスクーターだけではなく、スポーツバイクにも採用が検討されています。2017年の東京モーターショーにおいて、「NIKEN」というスポーツタイプのLMWも発表されましたね。

 

 

NIKENは2018年に市販化される予定で、他にも車椅子やベビーカーにも応用する構想もあるようです。

 

今後の主流になるかもしれないので、見逃せない技術だといえますね。